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むかしからおれとこの人とは仲よしだつた――それは押しかくすことのできない悦ばしさだつた。
「――?」
と、急に練吉が小耳にはさんで云つたのは、多分黙つて他のことを考へていたのだらう。
「なにしろこんな狭い田舎ぢやから、何事もねつうやる。それをやらんと後がうるさい。自然評判を落すといふことも起るかな」
「あら!いらつしやいませ。ようこそ。――ほんとうに、よくまあ!」
「かういふ玩具おもちやのやうなものを出して、年甲斐もないことでした」
房一は手足を洗ふと、簡単に診察着をひつかけて表へ廻つた。
「どうぞ」
房一は手答へのないのを感じた。
「それから、あれだが、今までよう訊かなんだが、――あれは、どうしたもんかの、大石さんの方は?」
「ほんとうに火事があつたのかい」
電灯のない時代はもちろん、その設備が出来てからでも、地方の電灯は電力が十分でないと見えて、夜の風呂場などは濛々もうもうたる湯気に鎖とざされて、人の顔さえもよく見えないくらいである。まして電灯のない温泉場で、うす暗いランプの光をたよりに、夜ふけのふろなどに入っていると、山風の声、谷川の音、なんだか薄気味の悪いように感じられることもあった。今日でも地方の山奥の温泉場などへ行けば、こんなところがないでもないが、以前は東京近傍の温泉場も皆こんな有様であったのであるから、現在の繁華に比較して実に隔世の感に堪えない。したがって、昔から温泉場には怪談が多い。そのなかでやや異色のものを左に一つ紹介する。