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房一はふと自分に返つて訊いた。
「あいつも、君んとこと同じで、子供ができたらしいよ」
貰った方でもそのままには済まされないから、返礼のしるしとして自分が携帯の菓子類を贈る。携帯品のない場合には、その土地の羊羹ようかんか煎餅せんべいのたぐいを買って贈る。それが初対面の時ばかりでなく、日を経ていよいよ懇意になるにしたがって、時々に鮓すしや果物などの遣やり取りをすることもある。
彼が冠をとると、円味のある顎肉には紐の痕が紅く残つていた。
房一は酒が不得手だつた。ところが、相沢も家業に似合はず呑めない口と見えて、二人の間には手もつけないまゝで生温くなつた銚子が二三本も置かれていた。こゝでも房一はもう会ふ人ごとに聞かれてうんざりしている医者となるまでの経歴を、相沢の問ひに答へてぽつりぽつり話さねばならなかつた。
房一は前の方を向いたまゝだつた。
徳次はいつのまにか腕組みをしていた。あのあてずつぽうな、そゝつかしい、力りきんだ様子が現れていた。
「うん」
と、云つた。
「お噂はうけたまはつています」
その時、練吉はぐつと盃をつきつけた。
「さあ、知らん」
「ふうん。ひどい奴だねえ」