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「さうか。うちの方では山車だしを引いて出るさうだ。それから、みんな紋付に羽織袴といふことだの」
「かりに、おれが真正面から反抗的に出て、それがために住みにくくなつたとしても、同じことだ」
「よく来て下さいましたな。何しろ不便なところですから、途中が大変だつたでせう」
「一昨年の水で流れちやつたからそのまゝになつてるね――ずつと下にはあるが、さあ、そこへ廻ると半路はんみち以上ちがふかな」
また夕方、溪ぎわへ出ていた人があたりの暗くなったのに驚いてその門へ引返して来ようとするとき、ふと眼の前に――その牢門のなかに――楽しく電燈がともり、濛々もうもうと立ち罩こめた湯気のなかに、賑やかに男や女の肢体が浮動しているのを見る。そんなとき人は、今まで自然のなかで忘れ去っていた人間仲間の楽しさを切なく胸に染めるのである。そしてそんなこともこのアーチ形の牢門のさせるわざなのであった。
と、微笑しながら頭を下げた。
「徳さん。追鮎は君のといつしよに活かしといてもらはうか――どつこいしよ」
「いかんと云ふわけもあるまいさ」
彼らは家の間まの一つを「商人宿」にしている。ここも按摩が住んでいるのである。この「宗さん」という按摩は浄瑠璃屋の常連の一人で、尺八も吹く。木地屋から聞こえて来る尺八は宗さんのひまでいる証拠である。
「さうなんですよ。まあだ帰らないの」
「まあ、葉書でざつと町内に出しときましたがね」
と、練吉はわざとらしく顔をしかめてみせた。
「おい、ビールは冷やしてあるかい」